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今年幾度目かの雪の日、保育園への迎えの帰りの車中で、「雪化粧」という言葉を6歳になった長女に教えました。そして「こんな綺麗な山を見ながら食べるとご飯も美味しいんだよ」というと「じゃあすき焼」と言葉を返され、保育園がお休みの日に雪見すき焼をすることになりました。丁度冷凍庫に、正月に実家で貰った霜降りの高級牛肉があります。そして我が家ですき焼と言えば、まずはこの話から。

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雪化粧1(山肌)

針葉樹と雑木の雪化粧が冬空とのコントラストが見せるのは日の出後の1時間あまり

 

雪化粧2(粒庵)

雪化粧の粒庵は山陰のため根雪となり、東京でありながらも雪遊びが満喫できる

 

らん月時代

3年間修行した銀座らん月。月に1日しか休みをとっていなく友人らは良く会いに来てくれた。

         

 東京の銀座。その銀座通りに面し、今も健在のすき焼・しゃぶしゃぶの老舗「銀座らん月」で修行していたのは、もう20数年も前のことです。家業の料理店の影響もあり、いずれは自分も飲食業に関わる仕事がしたいと夢見ていた大学卒業後、知り合いの経営コンサルタントの方の勧めで修行先になったのが当時、長葱を切るシーンのテレビCMでもおなじみの「銀座らん月」でした。修行は“石の上にも”ということで3年間。最初の1年目は高級松坂牛を使ったすき焼・しゃぶしゃぶ・ステーキ・オイル焼きなどを提供する“すき焼部”に配属。野菜の下ごしらえやタレの仕込みなどを補助しつつ、“割烹部”で使用する魚介仕入れ助手として営業前の築地通いが日課でした。2年目はホールに配属となり、銀座通りに面した入口でのドアボーイや客席ですき焼も焼く接客などを担当し、修行最後の年は営業部となりホールマネージャー・接客係指導・メニュー立案・店内装飾・営業戦略など飲食店の運営に関わる仕事を担当させてもらいました。

この3年間の修行は、北海道の田舎町から出てきた私にとって刺激的でかつ多くの未知の世界との出会いの場でした。その中で最初に遭遇した驚きが、関東味のすき焼でした。それまですき焼と言えば豚肉で、土鍋にたっぷりと入った醤油味の汁で肉や野菜を煮、溶き玉子に付けて食べるものと思っていましたが、ここではまったく違った食べ物で、かつそれがすき焼の王道であり看板メニューでもあったのです。最初は、この濃い味に馴染めるのか不安もありましたが、すぐにこの味の虜となり、あれから20数年経った今も、すき焼と言えば銀座らん月の味です。

 

タレ

左がコクのある割り下。右の出汁は焦げ付きそうな時など鍋に差す。

 

タレ

刃を研いでから切るといい。サクサクという音も心地よい

 



銀座らん月では特選すき焼の注文を受けると客席でネギ切りを見せていた

すき焼の準備はまず、割り下というコクと甘味のある醤油ダレの調合で、材料を合わせさっと火に掛けた後数週間冷暗所で寝かせておきます。このタレは作り置きしておき、蕎麦や刺身を食べるときなどに活用すると一味違った旨みが味わえます。
そして、食べる直前に鰹節と昆布でとった出汁を作りすき焼のタレの準備が完了します。

我が家の割り下の配合

濃い口醤油1.5カップ
みりん1カップ
酒1/2カップ
キビ砂糖大さじ4

つぎに、銀座らん月では“ざく”と呼んでいた野菜盛りを準備します。まずは何と言っても軟白長葱で、これが無くてはすき焼が始まりません。そしてこのネギの切り方が、あのテレビCMでも披露していた芸術的な1本切りです。利き手に牛刀を持ち先端をまな板に載せます。もう片方の手はネギの青い部分を浮かせて軽く持ちます。ネギを手前に進めながら牛刀でリズミカルに切り進んでいくと、同じ幅の斜切りネギがまな板の上に整然と並んでいくのです。この並びを崩さないように牛刀ですくいそのまま盛り付けます。後はタマネギの半月切り、飾り包丁の椎茸と裂いた軸、葉茎を分けた春菊、季節の花の梅に細工した人参、湯上げ白滝、焼き豆腐、水絞りした桃の節句らしい手毬麩を盛り付けて終了です。最後に肉を皿に盛って、いよいよすき焼開始です。

 

人参1

人参を円柱状に桂剥き。厚切りの皮は千切りしてキンピラに

 

人参

側面の5箇所へV字に包丁を入れて切り取り、その後1p厚の筒切りに

 

人参

花びらの谷から中心へ直角に5本筋目を入れた後、斜めに花びらを切り取る

椎茸

見た目とタレの浸み込みのための飾り包丁。裂いた軸は味も触感も楽しめる

 

春菊

葉と茎は火の通りが異なる。葉はサッと炙る感じ、茎は少々焼く感じ

 

野菜皿

野外では割れにくく気を使わなくていい竹や木の器を、盛りつけは見た目と焼きやすさを

肉盛り

半冷凍の肉で空気を包むように盛ると、焼くときに1枚ずつ取りやすい

 

肉皿

楓で作った拭き漆の1枚板皿へ、口にしても害のない藪椿の花を添えて

 

 

雪囲い作り手順

 

雪囲い作り手順

1.根雪で締まった雪塊をバケツ水に入れた雪を接着剤にし、半円形に積んでいく

 

雪囲い作り手順

2.雪囲いの中に二つ折りにしたビニールシートを敷いていく

 

雪囲い作り手順

3.座る場所と背もたれ位置にキャンプマットを配置する

絵

4.最後にブランケットなどで覆うように装飾。丸太椅子は袖机と重石を兼ねて置いた

 


 


 

会場は粒庵前に寒風対策として急設えした雪囲いの中。そして練炭コンロの上にコンボクッカーの蓋側を載せてスタート。牛脂を回した後、牛肉・長葱・焼き豆腐・椎茸と香ばしさが合う食材を載せた後、割り下を回し入れます。じゅわーっという音とともに胃袋に届く香り、そしてあたり一面を白くする湯気。後はただただ箸を進めるばかりですが、鍋奉行は必ず私です。あの銀座らん月仕込みの焼き技のみならず、当時のすき焼鍋とほぼ同じ形状と厚みのあるコンボの蓋のおかげで最高のすき焼になってしまうのです。

 

すき焼手前

コンボクッカーが熱くなったら牛脂をいれ油を回す

 

すき焼手前

肉を平らに入れる

 

すき焼手前

次に肉を少し寄せ長葱などを、ただし蒟蒻は肉を硬くするので別のほうがいい

すき焼手前

8割くらい火が通ったら割り下を、円を描くように入れる

 

すき焼手前

彩り野菜を載せたら完成

   
 

すき焼は、素材の旨みがより大切な料理ですが、それ以上に、煮るのではなく焼くということ、そして最後まで焼ききるということが最高のご馳走にする秘訣です。コンボの蓋ですき焼を試してみてください。雪の中でも冷めず、焦げ着かず、すき焼がもっと好きになるかもしれません。さらに最後の最後、チリチリに焼き絞めたシラタキとずっと鍋に入っていた牛脂を食べるのが私流です。

 

宴

立ち昇る湯煙の中、熱々の関東味のすき焼を頬張り、しばし雪景色は鍋の外です。

 

鍋の最後

鍋の上で踊るシラタキは見た目よりあっさりで食べやすく、油の抜けた牛脂はプリプリでコク旨でした。

 



長野修平

長野修平(ながの しゅうへい) プロフィール

1962年北海道の山菜料理店に生まれ。
海山の自然素材や古材で様々な暮らしの道具を作る作家。山菜料理や焚火料理などにも精通し、日々の暮らしやキャンプに独自のスタイルを持つ。首都圏や地方などでワークショップや作品展示などを行なう。現在、東京西端の陣馬山麓の古民家に家族4人で暮らしながら、手作りアトリエNature Worksを中心に活動。毎年10月に向こう2軒の陶房と行う「三軒工房展」では、薪窯ピザと天然水のカフェギャラリーを開き、500人を超える来場者にアトリエを開放。新聞・テレビ・雑誌などを通じての紹介も多く、著書には「東京発スローライフ」(オレンジページ)、共著に「おとなの自然塾」(岩波書店)や「野外で役立つロープワーク入門」(地球丸)、月刊誌「BE-PAL」では「子育てパパ長野修平の青空日記」を連載中。

ホームページ:www.nature-works.jp

 
   
     
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